私がミニキャラアイコンのお仕事を受ける際の制作の手順、お見積りの根拠、お客様とのやりとりについて、掲載許可をいただけたので、実例を基にまとめてみました。
個人でSNSなどのアイコン用ミニキャラを頼みたい、依頼を受けてみたいという方は多いのではないでしょうか。ご依頼を考えている方にとっても有益な情報をまとめていますが、特にこれから初めてご依頼を受けるイラストレーターの方にとって、役に立つものになれば嬉しいです。
今回のご依頼の内容
お見積り開始
この時点で考えたこと
- ゲーム実況動画に使うキャラクターとしてデザインする
- 明確に仕上げの指針となるものがあるので寄せられる気はしているけど、仕上がりを満足していただけるか若干不安
- 元デザインはあるけど、ある程度幅を持ったミニキャラのパターンを提案する必要はある
- 表情パターンを作りやすい絵柄に整える必要がある
- 最終的なご依頼の見込み量が多い
作業時間から見積もった結果
- デザイン費用は仮で5,000円~
- キャラクターイラスト作成費用は仮で5,000円~
- 同キャラの2枚目以降はデザイン費用は不要
用途が限定されているので単純に作業時間×時給単価で見積もりました。毎回時給で見積もるとは限らず、用途によって見積もりの考え方を変えることがありますが、今回は割愛します。
時給換算して見積もる場合、時給単価をいくらにするかは描き手がそれぞれの生活や事情に応じて好きに決めていいと思います。
イラストだけで生計を立てていこうと思ったら、目安として時給が最低賃金を下回らないくらいに設定するのが一つのラインになるかもしれません。もちろん、価格に見合った価値を提供できなければ、仕事として成り立ちません。
この時点では作業内容にやや不明瞭な要素もあり、これ以上、単価を下げるのは難しいと思いましたが、これだと初回1枚目が10,000円の見積もり提示になってしまうので悩みました。
もちろん、私の完成イラストを見て、そのイラストのテイストそのままを望んでいるお客様のご依頼の場合、自信をもって「できます!」と言えるので、この価格が絶対まずいというわけではありません。
最初にお客様へ提示したお見積もり
- デザイン費用は仮で5,000円~
- キャラクターイラスト作成費用は仮で5,000円~
- 同キャラの2枚目以降はデザイン費用は不要
- 女の子の一枚目はトライアルとして無償
- 不透明な部分があり、トライアルで見積もりが変動する可能性がある
- トライアルでご満足いただけたら、その後の男の子は前払い後の作業とさせてほしい
悩んだ結果、単価は変えず、赤字部分を追加してお客様に提示いたしました。
今回、無償トライアルの提案に踏み切れたのは、ご満足いただければ今後もご依頼をいただける感触があったのが大きいです。さすがに単発のご依頼しか見込めなかったら、この判断はできません。
また、私が確実に描き上げられる確証が無い状態でお声がけいただけたのが本当に嬉しかったのでその信頼に応えたいと思いました。私はお見積りを提示する際、必ず一度、相手の立場になって考えるようにしています。「これを言われたら嫌な気持ちにならないかな」「相手にばかり負担やリスクを強いてないかな」ということを考えながら、自分も納得できる落としどころを探っています。
経験上、依頼する側も描き手側もお互いに気持ちよくやりとりを進めた案件の方が良いイラストを仕上げることができると感じているからです。
お支払いについて
トライアル:女の子ミニキャラ作成
ここからは実際に描いたラフなどを載せながら、制作の流れをまとめます。
絵を描いたことない人からすると「デザイン費用ってなんだよ!2重請求じゃないの!?」って思う方もいるかもしれません。しかし、デザイン作業と仕上げの作業は全く別の作業で、むしろデザイン作業の方が仕上げ作業よりも時間のかかる工程なのです。
ラフデザインパターンの作成
こちらが最初にご提案したラフパターンになります。グレーに塗りつぶしてあるのは、デザインするにあたって、リファレンス(参考)とした写真資料などです。実際にはもっとたくさんの資料を集めてラフデザインを起こしています。
この工程で行ったこと
- 元デザインを極力そのままミニキャラ化したものと少しアレンジしたもの、まったく違うパターンを含む別案3パターンを提案
- パターンの中にゲーム配信に使うキャラをイメージしてあえて幅をもったデザインを盛り込む
- デフォルトポーズは立ちがよいのか、少しだけポーズを付けた方がいいのか選べるように並べる
- それぞれどういう意図で作成したものか明確にし、どれがイメージに近いか選んでいただく
一番不透明だったのが元デザインをどこまで踏襲すべきかという点だったので、まずはそれを絞りたいと思いました。
私はお客様の要望をくみ取るために3つほど選択肢を提示することが多いです。それを見て選んでもらうことを繰り返し、徐々に絞っていくようにしています。お客様からすると1案だけを提示されても、どう要望を出していいかわからないと思いますし、絵を描かずに言葉だけで絞ってもらおうとしても、お互いにうまくイメージが共有できないことがとても多いです。もちろん、「女の子を描いていたのに男の子に変えてほしい」などはさすがに無理のある修正なのでお断りしますが、可能な限り、要望をくみ取る努力、お客様が要望を伝えやすくする努力をしたいと考えています。
そのため、ラフ、デザインの工程で絵を用いたコミュニケーションをとり、要望を反映していきます。この工程はお客様の最終的な満足度が変わってくるので、とても大事にしています。
ご要望を反映して、ラフの絞り込み
お客様よりのご要望
- ①のデザインをベースに④の猫耳ヘッドフォンを付けてほしい
- 猫耳ヘッドフォンの発光部をピンクにしてほしい
- デフォルトポーズは動かさずに①の立ちがいい
こちらのチェック結果をいただいたおかげで自分の中でほぼ見積もりが確定できました。
服装や髪型は元デザインをほぼベースにできそうです。まだ、塗りを行ってないので若干の不安はありましたが、明確な仕上がりの指針があるので、そんなに手戻りはなさそうな気がしました。
デザイン費用についての補足
コミュニケーションを密にとり、お客様の要望をイラストに取り入れていく提案作業に対する費用として「デザイン費用」という科目を計上させていただいております。
もちろん、コミュニケーションを取らずに進めてしまってよいのであれば「デザイン費用」は不要になりますが、そうして進めたものを仕上がってから「思っていたのと違う」となると、お客様も描き手側も困ってしまいます。私はご依頼いただいた方にご満足いただきたいので、この作業を無しにすることはしたくないです。
例えば、デザイン費用をイラスト制作費そのものに内包させる価格設定も有りだと思います。その方が科目が分かれないので、費用がわかりやすいとも思いますので、1枚のみのご依頼の場合、そうした方がいいかもしれません。ただ、仮に2枚以上同じキャラクターを描くとなると、2枚目以降のデザイン作業にかかる時間ははガクっと減るのは絵を描いたことのある人なら共感いただけると思います。個人的には、科目を分けておいた方がお客様にもお見積りの内容について、実態にあった説明がしやすいと感じています。
見積もりの更新
当初の見積もりだと、以下のようになっていましたが、トライアルを踏まえるとデザイン費用はここまで膨らまないということ、キャラクターイラスト作成費用は5,000円でちょうどな感じという作業感でした。
- デザイン費用は仮で5,000円~
- キャラクターイラスト作成費用は仮で5,000円~
- 同キャラの2枚目以降はデザイン費用は不要
更新した男の子キャラクターの見積もり
- デザイン費用は2,000円
- キャラクターイラスト作成費用は5,000円
- 同キャラの2枚目以降はデザイン費用は不要
こんなことを言うと驚くかもしれませんが、最初から寸分の狂い無く完璧な見積もりを出せることなんてほぼ無いです。私はこんなことができる人には出会ったことがありません。なぜなら、見積もるために必要な情報が最初から出揃うことがないからです。私の場合、あらかじめその懸念も伝えた上で、作業に入ります。そして、やりとりを進めていく中で明らかに見積もり金額に変動が起きる場合、どうしてそうなるのか理由を添えて、正直にお客様にご相談をしています。
ただし、極力、高くなるというケースは発生しないように最初の見積もり時に少し余裕を持たせます。また、「想定通りの作業なのに自身の力不足で作業時間が思ってたよりかかってしまった」など明らかに自分に責任があることは、当然、見積もりの相談などせずに自分でなんとかします。
正式受注:男の子ミニキャラ作成
基本的な制作フローは女の子と同じなので、ここはラフ画~仕上げまでの過程の絵をザーッと貼っていきます。
ラフデザインパターンの作成
ラフの絞り込み
仕上げ
総括
最終的に大変ご満足いただくことができまして、その後もお仕事のご相談や、とても光栄なお話などをいただけており、大変よい形で今回のご依頼を完遂することができたのではないかと感じております。
大変良いお客様に恵まれ、私自身もとても楽しく、気持ちよくイラストを描くことができました。
最後に今回の記事を私個人のイラストご依頼の考え方としてまとめてみました。
私個人のイラストご依頼への考え方
- 私の描いたイラストで喜んでもらいたい
- イラストを使ったコンテンツでも楽しんでほしいのでできる限り、出口も意識して良いものにしたい
- お客様も、自分も、気持ちよく仕事をしてお互いに満足を得たい
- お客様と信頼を築き、相談しながら良いものを仕上げていきたいので、自分から歩み寄る
- 明らかに考え方が異なる人と無理して仕事をする必要はない
私はこんな感じでお仕事を進めていて、楽しく描かせていただけることが多いので、「こういう考え方、進め方もあるんだな~」くらいに受け取っていただき、何か参考にできるところがあれば、参考にしてもらえると嬉しいです。
キャラクターイラストのご依頼を進めていく中で、表情パターンの作成依頼をいただくことってありますよね。 今回は初めて表情パターンを作成する方向けに描く前に抑えておいた方がいいポイントを実例を基にまとめました。また、表情パターンを依頼したい方[…]