今回の記事は玖珂つかささんの線画をお借りして塗り絵をした際の工程をまとめてみました。
色の混ざった塗りをしてみたい方、重ね塗りや厚塗りに興味ある方の参考になると嬉しいです。
まだやったことない方向けなので、すでに慣れている方にとっては知っている情報が多いかもしれません。
玖珂つかささんのご紹介
はじめに、今回の塗り絵に使用した素敵な線画をご提供いただいた玖珂つかささんのご紹介です。とてもかわいくて、やさしいタッチのイラストを生み出される素敵なイラストレーターさんですので、ぜひ、つかささんの作品も見ていただけると嬉しいです。
線画と仕上がりイメージ
元となる線画が左で、今回の塗りの完成版が右のイラストになります。
塗り始める前に構想を固める
描き始める前にテキストで構想を箇条書きにします。これをやらないと描いている最中に迷いが出てきてしまうのでいつもやるようにしています。今回は線画が決まっているので、線画に合うように以下の構想でいくことにしました。
『前向きになれる春のイラスト』
- 柔らかい光がこぼれるほどに溢れている
- ピンクと青を基調にした虹色
- 色が折り重なった透明感
下塗り
この塗り方は下塗りが大事なので細かめに手順を記載します。
今回の使用ツール、主なブラシ、描画モード
- ツールは「ClipStudioPaintPro」
- メインで使うブラシは「エアブラシ」「ガッシュ」を半分ずつくらいの割合
- 「オーバーレイ」「加算(発光)」を多用し、「乗算」「焼き込みカラー」を少々使用
下地の色を置く
線画の描画モードを「乗算」にして不透明度を80%くらいにします。乗算にすると、白い背景部分は下のレイヤーに対しての影響がなくなるので、JPEG素材でも線画部分のみ使えます。(もちろん、輝度に変換して通常で重ねても大丈夫です。)
下地の色は最終的な仕上がりをどんな印象にしたいかで変えるようにします。今回は「前向きになれる春のイラスト」で「柔らかい光がこぼれるほど溢れている表現」にしたいので、暖色系で桜のピンクと相性の良さそうな黄色をベースにしました。
全体の印象づくりのために3色+αで色を置く
描画モードは「通常」で色を置き、不透明度を薄めにして重ねる形で全体の色の印象を作っていきます。桜に関しては全体の印象に与える影響が大きいので、この段階で一緒に色を置いていきます。
また、画像のようにこの段階で光の方向性を固めた上で色を置くことが大事です。「柔らかい光がこぼれるほどに溢れている」ようにしたいので、逆光ぎみにすることにしました。
下塗りの色の選び方
『キーカラーを決めて、その色から120度ほど色相を回した色を2色つかう』という考え方で色を選んでいます。言葉でいうとわかりづらいかもしれませんが、こういうことです。
今回は「ピンクと青を基調にした虹色」にしたいので、ピンクをキーにしつつ、他の2色を少し青に寄せてます。すると、選んだ色が色相環の中で片側に少々偏ってしまうので、水色と緑を増やして5色にしています。
色相環という言葉になじみが無い方はGoogle検索してみてください。知識として知っているのと知らないのとでは絵を描くときの悩みが大分変わってきます。そんなに難しい話ではなく、中学校や高校の美術でも習うようなお話です。色相環を知っているとわかるのですが、120度刻みの3色があればその色の割合、混ぜ方を変えることで虹っぽい色を作れるので、最初から色数を増やしすぎない方がきれいな色が作りやすいです。
下塗りの上に固有色をつくっていく
ここでも描画モードは「通常」&不透明度を薄めで整えていきます。
固有色を作る上での注意
- 強い固有色を持つ箇所(髪、鞄、スカーフなど)はその色を薄めに置く
- 薄い色の箇所は陰影部分のみ、下塗りで使った色をほんの少し固有色に寄せた色を置く
- 線画からはみ出してよいのでふんわり色を置く
固有色を「塗る」のでなく、「つくる」という感覚が大事なポイントです。
例えば、オレンジ色の照明の下で見たときの白い服と、青い照明の下で見たときの白い服は全く別の色になるのですが、見た人は白い服と認識します。実際に写真を撮ってスポイトで色を拾ってみると色の違いがわかると思います。そうした色になっているから、色のついた照明があたっているように見えるのです。
これと同じことがイラストでも言えて、「柔らかい光がこぼれるほどに溢れている」を表現しようとした場合、光や周囲の環境がモチーフに与える色の変化を落とし込まないとそうは見えないので、固有色が白だからといって、白をそのまま塗ってしまうことは避けなくてはなりません。
「オーバーレイ」と「乗算」で陰影を強める
1個前の段階だと、うすぼんやりとしすぎているので、「オーバーレイ」と「乗算」レイヤーを用いて、陰影を上記ぐらいの印象になるまで少しずつ強めていきます。この時、これまでに使った色に加えて、白(R255、G255、B255)と黒(R0、G0、B0)も使用していきます。
塗りこみ
ここから先は「ガッシュ」ブラシを使いたいので、レイヤーの統合を繰り返しながら進めていきます。
「ガッシュ」に限らず、塗ってある色と混色するタイプのブラシを使うときはレイヤーを統合して描かないと、色が混ざらないので注意が必要です。(もちろん、あえてレイヤーを分けて色は混ぜずに「ガッシュ」のタッチだけ生かすという塗り方もあります)
レイヤー結合し、「ガッシュ」でタッチを出しつつ塗っていく
統合したレイヤーをガッシュで塗っていくときは、下塗りの色をスポイトで拾いながら描き込みを進めます。ここで下塗りを無視して、カラーピッカーから自由に色を選んで塗り始めるとまとまりの無いイラストになってしまいかねないので注意が必要です。塗りを進めながら、これまでと同様に別レイヤーでオーバーレイや乗算も重ねながら陰影も強めていきます。
なんとなく髪の毛の流れや鞄の塗りなどが整ってきました。
このあたりから、下塗りでは使わなかった「加算(発光)」と「焼き込みカラー」の描画モードも使用しています。
「加算(発光)」と「焼き込みカラー」のざっくり解説
- 「加算(発光)」は白く塗った場所を白く飛ばす(グロー効果)
- 「焼き込みカラー」は塗った場所を暗くしながら色を混ぜる(オーバーレイと違って明るくする効果はない)
この2つは不透明度をかなり薄めにして、重ねて使っていくと色に深みが出てきます。
描画モードはまずそれぞれを触ってみて、自分なりの解釈をつかむといいと思います。もちろん、詳細な計算式を知っておいた方がいいのは事実ですが、「感覚としてこういうもの」が先にあって、その後で「実はこういう計算になっている」という形で理解を深めた方が忘れないと思います。
注意点として、描画モードに頼りすぎると、手描き感は薄れていくので描きたいテイストに合わせて適した使い方をしていくことが大事です。
下塗りで「ガッシュ」や「加算(発光)」「焼き込みカラー」は使っちゃダメ?
ダメではないですが、私は以下の理由で使わないようにしています。
- 要素が増えるほど、まとめるのが大変になり、描くスピードも落ちる
- はじめは少ない要素で、徐々に要素を増やしていくほうが完成形がブレなくて済む
- 下塗りでは柔らかいグラデーションを作りたいのでタッチが出るブラシは控えている
この辺は個人の感覚によるので、もし、最初から使った方がやりやすく感じられるという人は使っていくといいと思います。
塗りこみのガイドとして先に瞳を塗る
さらに描き進める前に、先に瞳を塗って、全体の塗りや描き込み具合のガイドにします。
イラストの中で一番強く描き込むポイントを先に描いてから全体を整えていくと、全部塗った後に「なんだか全体が淡すぎるかもしれない…」といったことが起きづらくなるので、おすすめです。
瞳の塗り方をここで書くと長くなってしまうので別記事にまとめました。もし良かったら、見ていただければと思います。
こちらの記事は「透明感のある重ね塗り」記事の瞳の塗り方部分を掘り下げた記事です。塗り方の詳細は以下の記事をベースにしているため、ここでは画像ベースでシンプルに手順をまとめました。 [sitecard subtitle=関連記事 url=h[…]
陰影を強めながら、形を掘り出していく
ここからは「色が折り重なった透明感」を表現するために、光の透過を意識した陰影もつけていきます。
描き方はこれまでと同じで、統合したレイヤーで形を掘り出しつつタッチを出していき、陰影の強弱もレイヤーを重ねてさらに強めていきます。
髪の毛と桜をある程度描きこんだところで、そろそろ線画と統合して処理をしたくなってきたので次の工程に移ります。
キャラと背景のレイヤーを分ける
背景とキャラの境界がぼやけすぎている箇所の調整や、線画を塗りつぶしてしまいたい箇所の調整、背景自体の描き込みも進めたいので、背景とキャラのレイヤーを分けます。
レイヤーわけの手順
- 瞳を除いて線画と塗りのレイヤーを結合する
- 結合したレイヤーを複製し、片方をキャラのみ切り出す
こうするとキャラが2重に重なることになりますが、透過している箇所はないため、見た目的には差がありません。瞳を別レイヤーのまま残すのは、その方が後で顔を描きこむときにやりやすいからです。
レイヤー切り分け後の塗りこみ
背景を光があふれるイメージ背景に
背景レイヤーの上に「加算(発光)レイヤー」を作り、エアブラシで光のオーブを描きこんでいきます。描きこむ際には光の方向を意識して、少しその方向に流れるイメージで、ぽんぽんっと置いていく感じです。あまりブラシを長くストロークさせるとオーブっぽくならないので注意です。
オーブは白(R255、G255、B255)で描き加えて、光の強さはレイヤーの不透明度で調整します。
オーブを加えたことで色の印象が若干変わってしまったので、バランスをとるために、画面下部に対して「焼き込みカラー」で緑色をのせました。
キャラと背景の境界が汚くぼやけている箇所を調整
すべてのにじみを取りきると固くなってしまうのですが、全体がぼやけすぎていてもよくないので、目立つ箇所のにじみを修正します。手前にキャラレイヤーがあるので、背景レイヤー上で近くの色をスポイトで拾い、キャラにめり込む感じに塗ることで簡単ににじみは消せます。
キャラクターを描きこむ
基本的に今までの延長で、物足りない部分をそれぞれ描き込んでいきます。
新たな要素として、線画も統合したので線画の上から色を塗ることができるようになっています。光が当たって明るい箇所の線画を塗りでつぶすと光が溢れている感じが出せるので、この調整も同時に進めます。また、顔の描き込みに合わせて、このタイミングで白目も塗っています。
風に揺らぐ髪を描き足す
髪の毛の色をスポイトで取り、「ガッシュ細筆」で風に揺らいで遊んでいる髪の毛を描き足します。これをやると空気感や光が透過している感じが1段階あがります。「Gペン」などの完全に不透明なブラシを使うのではなく、少し下の色が透けるブラシを使った方が透過感が出ます。
光がにじむブルーム効果を加える
「柔らかい光がこぼれるほどに溢れている」を表現するためにブルーム効果を足していきます。強い光が当たっている箇所がにじんで見える現象です。画像のように、境界の上から加算(発光)レイヤーにエアブラシで白を載せていくとそれっぽくなります。
実際にブルームの有無で比較すると以下のようになります。
光の粒をちりばめる
一番上に「通常」レイヤーをつくり、固めのエアブラシで白い粒をちりばめます。この時、髪の毛にハイライトを加えるイメージで、髪の周りにちりばめていきますが、この時、髪とは外れた場所にもまばらにちりばめると全体にまとまりのあるキラキラ感が出せます。
仕上げ(ポストエフェクト処理)
塗りに関してはほぼ完成したので、ここからポストエフェクト処理をかけていきます。
光芒の追加
仕上がったイラストに対して、一番上に「加算(発光)」レイヤーを作り、光芒の形に白を描き加えることで、全体に光をいきわたらせて、まとまりのある印象をつくります。
光芒を入れ終えるとこんな感じになります。
ぼかしを加えて中央にピントを合わせる
人物のポートレートの場合、メインで見せたい箇所以外は少しピントが外れた状態、つまり、ぼかしがかかった状態にしたほうがよい印象になると思います。赤枠で囲った部分を選択して、選択範囲の境界をぼかした上で、ガウスぼかしを適用します。
ぼかしを適用するとこんな感じになります。(※サムネイルだとわかりづらいと思いますので、クリックして拡大してみてください)
「スクリーン」で版をつくり、「乗算」で重ねて鮮やかな色合いにする
少し色合いを鮮やかにしたいので、色調補正をしていきます。今回はかねてより気になっていた手法にチャレンジしてみました。
元画像を複製し、「スクリーン」で色を重ねて版を作り、この版をに「乗算」で重ねることで、色が鮮やかになり、色の深みも出すことができる…的な手法です。
結果として、色合いを鮮やかにすることはできたのですが、PhotoShopのレベル補正やトーンカーブで個別にチャンネルをいじったり、カラーバランスで調整を加えることで得られる効果との違いが出せず、「色の深みが出る」という部分が今一つピンときませんでした。もしかしたら3原色に近い色でやってしまったためかもしれません。版は2色にして、別の色で試してみるのもありかと思いました。もうちょっと勉強が必要そうです…!
四辺をトーンダウンさせて、中央を引き締める
画面の四辺を少しトーンダウンさせることで、中心がより鮮やかに感じられるようになり、ぼかしと同様、見るときに自然とピントが中央に合う効果が出せます。やり方は簡単でカンバスサイズより少し小さめの選択範囲を作り、選択範囲の境界をぼかして、反転して黒で塗りつぶし、それをオーバーレイで重ねるだけです。
完成
まとめ
- 下地で柔らかいグラデーションをつくり、その色を拾いながら描いていく
- 一気に塗らず、薄く薄く重ねていく
- 固有色をつくるときに光や環境による色の変化を反映する
- タッチを作る塗りは1枚のレイヤーにまとめて色を混ぜながら描き込んでいく
- 別レイヤーにオーバーレイや乗算の白や黒を塗ると濁りの無い状態で色幅を広げられる
- 線画でパッキリ分けすぎない